2015年の夏、招かれた会議室で人事部長のHさんが見せてくださった図表。 それは、5年後・10年後・20年後、、と年を追うごとの変化を予測した、年齢別従業員数推移でした。
「 未来に向けて、これからもずっと成長していける会社であって欲しい 」
「 そのために、”人を育てる人” をもっと増やしていきたい 」
そう語りながら、検討中の新人事評価制度を説明してくださったのでした。
それは、一般企業に流布しているような「 短期業績の評価制度 」ではなく、 人を強くできる行動こそを評価し、上司が部下の成長に寄り添えるように設計された「 成長支援の促進制度 」でした。
上司の裁量と責任を拡げ、マネジメントに創造性と対話を求めるこの制度は、
「 自分を成長させるために、社員は会社という舞台を遠慮なく使えばいい 」
「 上司には、個の成長が組織の強さに連動するよう、部下と日々対話を重ねて欲しい 」
そんなメッセージを投げかけていると、私は受けとめました。
一般的に、人事教育部門が打ち出す施策は、何らかのメッセージを内包しています。 主にそれは、社員への ” 変化 ” を要求していることが多いかもしれません。 変わらないままの未来と、変わった先の未来を何度も見比べ、その上で変化を促していく人事責任者の判断。 その真意が社員(と全経営層)に理解され浸透するまでには、おそらく一定の時間を要することでしょう。
ここから長期に渡り育てていく、生まれたての制度。 その産声が聞こえる場に、今まさに同席させていただいている。そう感じました。
制度導入から5年経ち、Hさんと二人の近況交換の会。 話題は人事の役割へと及び、ふと前々職時代の出来事を思い出しました。
人事担当者だった私の、
「 人事にとっての顧客は社員だと思う 」
という発言に、
「 人事の本質的な顧客は経営だ 」
と、かつての上司Yさんは、当時の私に欠けていた視点を教えてくれました。 単に上を向けということでは当然なく、この言葉の真意は、
「 数年後数十年後、人事にとって未来の組織で活躍し続ける社員も大切な顧客である 」
そういうことだったのではないか、と私は思っています。
未来を考える人事の役割は、創薬の仕事に似ています。 ワクチン開発の基礎研究に感染症拡大前から時間と予算を割けたらよいように、 企業の人材開発・組織開発は、業績が好調な時、トラブルが起きていない時から、未来を見据えて計画していく必要があります。
そして人事責任者の役割とは、未来へと続く道筋に ” ドミノ ” を一つ、また一つと置き重ねていく仕事かもしれません。 そこに置こうとしている一枚のドミノが、” 本当に必要なものなのかどうか ” を考え抜き。 置いたことで、” 流れをせき止めはしないだろうか ” と副作用を検証し。
倒してみないと答え合わせができない ” その一枚のドミノ ” を、組織の未来を思い描く心で力強く置いていかねばならない存在。 それが人事責任者だと思うのです。
近況交換会の終わり、Hさんから「 人事責任者って、どんな人間だと思われますか? 」と訊かれ、 私はご縁ある方々をとっさに思い浮かべながら、
「 共通するのは、大変そうな時でもなぜか笑顔です 」
と返答していました。
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今だけでなく「 組織の未来にも尽くしている 」、そう感じさせてくださる方々との対話の時間は、 互いの経験を深め合う、大切なファーストコーチングの時間になっています。
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