EXPECTING
マネージャーのエクスペリエンス

部下の可能性に期待する、という経験

EXPECTING

社会人3年目。
IT技術者だった私は、T課長としばらく二人、社内の他部署に常駐することとなりました。
顧客企業の各支店にアプリをネットワーク配布する技術の選定検証が、私の業務。
本社部門から現場復帰して間もないT課長は、常駐初日、私にこう伝えてくれました。

「 俺は最新技術に明るくないから、技術のことはおまえの意見をまず聞きたい 」

私のほうも自信はありませんでしたが、T課長の言葉は私のやる気に火をつけました。
自分を信頼してくれている上司がいる、このことが力の源となりました。

イベントに足を運んでの技術選定。
他部署から必要機器を借りられる、夕方から夜間にかけての検証作業。
解析装置の使い方を他ビルの先輩に教わり、週末は技術書を片手にトラブルの原因分析。
私はT課長に毎日終電の車中で話を聞いてもらい、忙しいながらも充実した日々を過ごしました。

結果的に、私が検証を続けていた方式には、大きな欠陥が見つかりました。
なおも打開策を探す私に、週初幹部会議を終えた直後のT課長から声がかかりました。

「 検証作業は中止に決まった。ここまでよく努力してくれた。俺は課長失格だな 」

この言葉をもらってもなお、自分なりには頑張った・・と、当時の私は勘違いをしていました。

それから10年経過し、コーチに転身した私は、営業チームのマネージャーになりました。
そこに加わった、社会人3年目のOさん。
銀行出身のOさんは、お客様先だとなぜか持ち味が薄らぎ、発言や態度がかたくなってしまいます。
いつもの自然体を出して欲しいと、訪問直前に二人で乾杯(ビール少々)して臨んだことも。

結局、私のもとでは十分自信を深められないまま、Oさんは本社部門へ異動。
そこで彼は、著しい成長と大活躍を果たすこととなったのでした。

その頃から気づきはじめました。
上司が部下を信じぬく上で、欠かせない要素に。

私が若手技術者の頃、課題に対し次どう動きたいかは、上司との対話がいつも気づかせてくれていました。

 『 しっかり任せて自覚をもたせ、日々対話で支えていく 』

技術者〜人事〜コーチの各キャリアで出会った多くの上司も、私に対しこのように接してくれました。
一方上司になった私は、若手に高いゴールをいきなり与え、営業同行という力技のみで育てようとしていた。
任せる前に「 部下に何から経験させるべきか? 」を問う姿勢、
任せた後に「 部下に経験を語らせる 」日々の対話、共に不足していたわけです。

上司との対話にいかに自分が支えられていたか、若い時は気づきにくいものなのかもしれません。
私自身、部下を持ち少しだけ、部下と離れさらに少しずつ、そして事業に真の責任を持つ立場になってようやく、かつての上司の気持ちがわかり始めました。
上司が深めてくれた経験を梃子に、今度は自分が部下と学び、部下の成長に立ち会う。
人生でこれらの経験に出会えてよかった、そう思います。

* * *

鎌倉VisionCoachのマネジメント研修は、対話スキルと共に、

 『 上司が、上司ならではの価値で勝負する 』

この経験の価値と喜びをお伝えしています。プレイヤーの延長では決して味わえない喜びです。

部下にとって、「 自分を必要とし、自分の可能性を信じてくれている 」上司の存在は、力の源となります。
そして、上司の価値の源は、部下の経験を深めていく ” 対話 ” の中にあると思います。